エレベーター広告事業を展開する株式会社東京の急成長の裏側、代表・羅さんの巨大な将来構想について聞きました。学生時代にどのように事業を構想し実行に移していったのか、軌道に乗るまでにどのような壁にぶつかったのか、リアルに語っていただいています。学生起業、売り上げゼロのスタートアップが、三菱地所と合弁会社を設立し、エレベーター広告事業で急激に成長しているという、前例のないエピソードは必読です!
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手嶋:一般的に役に立つ話をしようと、これまで意図的に投資先の人には出てきていただいてなかったんですけども。今回は、初めて投資先の社長をゲストに迎えます。「こういう起業家もいるんだな」と、面白い話が聞けると思います。
エレベーター広告を展開している株式会社東京の羅 悠鴻さんです。結構大変なプロセスでここまで来ているので、前半は今までの話を、後半は未来の話や、海外の状況を聞いていきたいと思います。Xtechベンチャーズの1号ファンドの投資先ですけども、羅さんから簡単に自己紹介していただいていいですか?
羅:株式会社東京の羅と言います。エレベーター広告事業を行っています。一口に言うと、タクシーに乗ると目の前に映し出されるタクシー広告のエレベーター版ですね。2019年3月に、Xtechベンチャーズさんから投資をしていただいてます。
手嶋:投資先との距離感っていろいろあると思うんですけど、表に出ていないことも含めてかなり動きが激しい会社なので、密着したやり取りをさせてもらっています。驚かされることも多い投資先の1社です。創業は2017年でしたっけ?
羅:そうですね。2017年2月です。
手嶋:創業のきっかけはどんな感じだったんですか?
羅:もともと学者家庭で育ったので、本当は研究者になろうと思っていたんです。けど、大学院に入ってみて「アカデミアって100年先のことをやるんだな」と知って、ちょっと違うなと思いまして。なので、友人と一緒に就活やろうぜと、メリルリンチとか外資系の金融機関を回ってみたら結構楽しくて。ただ、インターンに行くと、そういう世界ってもう全然寝られないんですよ。
手嶋:寝られない。
羅:はい。2泊3日のプレゼン合宿で、めちゃくちゃ働くので、インターンなのに2時間睡眠なんですよね。で、僕は寝られないのやだなと思って、それなら会社を作るかと考えて立ち上げました。だから志は低いです。
手嶋:要するに、自分のペースで仕事をしたいと。
羅:そうですね。8時間の睡眠が確保できない働き方はいやだなと。
手嶋:ちなみに今は8時間寝られてるんですか?
羅:いや、寝られない日もあります。でも寝たいときに寝られるので。
手嶋:自分で仕事のペースをコントロールできますもんね。2017年、東大大学院1年のときに会社を作ったんですけど、まず会社を作りたい、起業しようというのが先にあって、ネタを探し始めたって感じですか?
羅:そうです。
手嶋:ネタが見つかってから登記したんですか?
羅:起業と同時にいくつかネタは持っていたので。考えるのが好きだったんですよね。実は、大学3年生のときにビジコンに出ていて。
手嶋:別に揶揄する表現ではないんですけど、当時は意識の高い大学生だったんですか?外資系企業でインターンしてみたりとか、ビジコンに出たりとか。
羅:ビジコンはそのときだけですし、若手起業家の中では意識が相当低いほうだったと思います。逆にラクロスやってたり、チャリに乗ったり歌ったりしていたので、大学生活では。
手嶋:アカペラサークルの話はよく聞いたことありましたが、ラクロスもやってたんですか?
羅:大学1年生のときはラクロスをやってましたね。
手嶋:やめちゃったんですね。
羅:それもやっぱり休みがなかったので……
手嶋:(笑)。少しのんびりしたいという欲求があるんですね。
羅:そうですね。というか、自分で自分の時間をコントロールしたいじゃないですか。
手嶋:なるほどね。根っこがそこにあるんですね。そういう意味だと、起業は自分で運命を切り拓くものなので、自分次第なところがありますよね。起業前に何してたかをもう少し深掘りすると、東大の理科一類に入って、ラクロスを。最初は体育会系でやるぞって感じだったんですか?
羅:そうですね。僕の名字が「ラ」なので、新歓でラクロス部に行って、「羅っていうの?もうここに入るしかないよ」と勧誘されて。
手嶋:くだらねえ~(笑)。
羅:僕、そういうノリが好きなので入っちゃって。
手嶋:で、休みが取れなくて1年で辞めて。
羅:はい。年に3日しか休みがないので。
手嶋:体育会系の中では多分十分なことなんでしょうけどね。アカペラサークルには2年から入ったんですか?
羅:自転車とアカペラサークルに同時に入って、3年間やっていました。
手嶋:そのアカペラと自転車は、起業に繋がるストーリーとして出てきますよね。最初の創業時に誘ったのが、アカペラサークルの友達だったんですよね。
羅:そうです。アカペラサークルの友達と大学1年生のときの語学のクラスメイトとですね。
手嶋:最初は何人で始めたんですか?
羅:3人ですね。
手嶋:それはもう、エレベーター広告をやろうと自分の中で思って誘った?
羅:そうですそうです。1人はデザイナーで、アカペラサークル同期の新谷っていうんですけど。当時デジタルなことをやろうとは全く思ってなかったので、エレベーターの中で貼り紙の広告を出そうとしていたんです。アルプスの写真を貼って、ウォーターサーバーの広告を出すみたいな。でも、僕はデザインができなかったので彼を誘いました。
手嶋:そもそも、外資系は寝られないから起業しようと決めて、エレベーター広告事業をやろうというのは飛躍があると思うんですけど。どれぐらい考えて決めたんですか?
羅:あんまり考えてませんでした(笑)。ビジコンに出てたときに、今で言うUbieのような、問診票のデジタル化サービスをやっていて。風邪をひいて病院に行くと、医師からの最初の質問ってだいたい一緒じゃないですか。それなら機械でできるなと思って。医師の時給は高いですし、問診の時間が1/3にカットできたら結構いいじゃんと。
それとエレベーター広告と2つの事業プランがあって、自分の中で。問診票サービスは1回やってみて挫折していたのと、医療の世界がよくわからんということで、それでエレベーター広告の事業を選んだという、それくらい軽いノリでした。
手嶋:会社を作って、人を誘って、みんな大学生だからそんな深く考えずに「面白そうじゃん」って感じで乗ってくれたんですか?最初は。
羅:そうですね。新谷はわりとそんな感じで、あとは見かねて入ってくれるケースが多くて、うちの会社は。
手嶋:「大変そうだね」みたいな感じ?
羅:そうです。「こいつはやばいから、俺が手伝わないと死にそうだな」みたいな。
手嶋:みんな結果的に就職せずに東京にジョインしてくれたメンバーが多いですが、当時は別に就職活動をやめてまで入ろうとかって感じではなかったんですよね?
羅:ですね。そのプロジェクト手伝うか~ぐらいの感じですね。
手嶋:そんな感じで、エレベーター広告に目をつけて会社を作って、全く未経験の大学生が何人か集まったところから、そこそこ立ち上がってきた現在の状況に至るまでいくつかステップがあったと思います。1ステップ目は何をやったんですか?
羅:とりあえず、僕らは不動産と広告と両方に営業しないといけないじゃないですか。どちらを先にするべきかわかっていなかったんですが、普通に考えたら、お金を出すのに広告を設置する元がないのはおかしいなと気づいて。なので最初は不動産の開拓を。
不動産業界について詳しくなかったものの、ビルオーナーが存在することはなんとなく知っていました。今までの人生で会ったことはないけど、物があるならそのオーナーがいるはずだと。あと大きいビルなどはデベロッパーがオーナーなので、そこら辺には会いづらいんだろうなみたいなのもわかっていたんですよ。そこで、小さな雑居ビルのオーナーがたくさんいそうな街って銀座かなと。
手嶋:クラブの密集地とかそういうイメージですか?
羅:そうです。で、それぞれのビルに行ってピンポンしまくるみたいな。「このエレベーターを貸してください」とお願いすることを始めましたね。
手嶋:会社登記して「よっしゃ!俺らでエレベーター広告をやろう」ってホワイトボードとかに書いて盛り上がって、「とりあえず不動産だ!翌日行ってみよう!」って銀座に行ってピンポンしまくる。それぐらいのノリだった。
羅:もはや会社すら登記していないですし、そもそもメンバーに相談もしていなかったです。
手嶋:じゃあ、1人で行ったの?銀座に。
羅:そうです。
手嶋:なるほど。で、どうだったんですか?ウェルカムムードでしたか?
羅:まず、「名刺とかないの?」って聞かれて。なかったので学生証を出してました。意外と反応は悪くなくて、「なんか面白い人来た」みたいな。ちゃんと話してくれたのが1日5人ぐらい。
手嶋:え、ピンポンして、ビルオーナーに会えたんですか?ビルオーナーがそこにいるかどうかってわからなくないですか。
羅:僕、そこは立てた仮説がするどくて。銀座のビルって、やっぱりビルオーナーがだいたい最上階に住んでいるんですよ。
手嶋:そうなんだ。
羅:昔お店をやっていて土地を持っていた人が、最上階に住む現象があるみたいなんですよ。ビルにエステやらクラブやらが入っている中で、最上階だけ人の名前が書いてある。そこへ行くとだいたい高齢の方が出てきてくれるので、「エレベーター広告をやりたいんです」と話して。
あるとき、河北新報社という宮城県本社の新聞社の東京支店に行ったら「いいよ」と言ってくれて。話が盛り上がって「これは来たなあ」と思ったんですけど、そのビルを半月後に取り壊すと。「それまでに何かできる?」と聞かれて。「2週間で広告を見つけてくるのはちょっと無理な気がします」と、挫折した。
手嶋:当時はポスター広告を貼る事業を想定していて、だからデジタルの機器とかはいらないわけですよね。でも無理そうだと一旦諦めた。それで、そういった活動をゲリラ的にやりながら会社を登記して、人が集まる頃にはどういう状態になっていたんですか?
羅:そもそも、コウさんというエンジェル投資家に入ってもらっていて、不動産仲介会社の社長さんなんですけど。お会いできたのがきっかけで会社の登記をしました。
手嶋:ああ、じゃあそれまでは本当に会社を作るかどうか悩みながら動いていたんですね。ただ、いろいろ動いたらコウさんと出会って、「会社作っちゃいなよ」って言われたと。
羅:そうです。「面白いじゃん、手伝うよ」と言ってくれて。僕にとって、初めて会うしっかりとした大人だったんすよね、コウさんは。かつ、いろいろな方を紹介してくれて。この人に協力していただけたらできる気がすると思って、会社を作った感じです。
手嶋:そのコウさんとはどうやって出会ったんですか?
羅:Facebookメッセンジャーで突撃をして。
手嶋:どういうロジックでスクリーニングして、どのように連絡したんですか。
羅:最初は交流会に参加していたんですが、その場には投資用マンションの営業しかいなかったので、あまり意味がないなと。次にテレアポという手法が世の中にあるらしいので、自分で電話してみたんです。でもテレアポってすごく断られるじゃないですか。今考えると当たり前なんですけど、断られると僕もメンタルが弱いので、へこんでしまって。10件ぐらいでもうダメでしたね。
手嶋:挫折してしまったんですね、テレアポに。
羅:そうです。でも、Facebookメッセンジャーだったら心が痛まないぞと思って。当時はFacebookで職業検索ができたので、それでネットサーフィンをひたすら2~3日やっていました。
そのときに発見した法則が、不動産会社の一般社員っぽい方は、だいたい8割が同じレイヤーの人、2割が役職がついていそうな人とつながっていると。今度は課長たちのプロフィールを見ていくと、友達の8割はマネジメントレイヤーで2割が部長や執行役員クラス。部長クラスの友達の8割はまた同じレイヤーで、2割が社長だと。最後に社長をたどると、8割が同じく社長クラスの方々だったんです。だから社長までたどれると、経営者の方とアクセスできる。
不動産業界はだいたいみんな知り合い同士なので、片っ端から不動産会社の社長さんにDMしまくっていました。それで、唯一コウさんだけが反応をくれたんです。
手嶋:コウさんというのは、不動産業界で活躍されて業界に精通されている方ですね。最初のインベスターにもなってくれたんですか?
羅:最初はまだ投資の段階ではなかったので「会社作りなよ」と言ってくれて。
手嶋:自己資金でまず作って、資本金は10万円とかそういう感じだったんでしょうか。そこからコウさんとつながって。当初はポスターを貼ろうというところから、現在はデバイスを作ってそこでCMを配信してますよね。移行をしたのはいつなんですか?
羅:ちょうど会社作る直前ぐらいだったと思います。ポスター広告を貼るのに、営業を飛び込みでやってみたんですね。そしたら、広告主は1週間くらいのスパンで入りたがるということがわかって。
ポスター貼ったり設計したりするのに1週間かかるのに、それを1週間で変えられてしまったら、たまったもんじゃないなと思って。なので、バス停にあるようなデジタル広告をやろうと自分で設計してみたものの、僕は理学部出身ですが工学的な知識が全くないんですよ。
わからんなと思ったときに、熊谷という現在のCTOが大学の友達にいて、彼がANAのビジコンか何かに出ていた。スマホにプリズムカメラをつけて360度撮れるTHETAのようなものを作っていたので、「そのからくりの作り方教えてよ」と話しかけたのが移行のきっかけです。
手嶋:相談をしてみて、今の形に近づいていった。
羅:そうです。熊谷が、「アナログでやるのは大変だから、タブレットでアプリを作ってやればいいじゃん」と言われたんです。なるほど、アプリかと思って。僕にそういう考えは全くなかったので、作れるか聞いたら作れると。じゃあ、よろしくみたいな。それが熊谷のジョインのタイミングでもありますね。
手嶋:大学生が集まって物を作ったり、突撃していったりしながら、ちょっとずつエレベーター広告の設置は進んでいったんですか?
羅:全く進みませんでした。
手嶋:どうして進まなかったんですか?
羅:設置までこぎつけかけた物件とかもあったんですけど、当時の一番大きいハードルがエレベーター保守会社だったんですよ。
手嶋:あ、ビルオーナーじゃなかったってこと?
羅:エレベーターって特殊で、エレベーターを保守する専門の会社があるんですね。今だからわかることなんですが、エレベーターの保守会社はとても儲かるんです。チャーンすると人の命に関わる、かつ、寡占マーケットなので。
手嶋:東芝さんの会社を3分割するのが話題になっていましたが、そのうち1つの会社の主要事業はエレベーターですもんね。それぐらいドル箱ってことですよね。
羅:三菱電機で、一番景気が悪かった時期の純利益の97%は、エレベーター保守事業で稼ぎ出しているとも言われていました。
手嶋:世の中の人たちはあまり知らない事実だよね。
羅:彼らは逆に言うとベンダーロックというか、もうブラックボックスにすることで保守を絶対自分たちにしかできない仕組みにして稼ぐというビジネスなので、他の会社が入ってくるのを非常に嫌がるんですね。
ビルオーナーさんがOKと言っても、広告を貼ると保守できないと言われてしまうんです。これは難しいなと思って、エレベーター保守会社さんとも提携させていただきました。